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狐の学者クラフトの話 参

更新日:2019年1月5日

「あのね、リーアね… 今まで隠してたけど、実は霊能者なんだ!」

翌日の会合は、そんな告白から始まった。

*・*・*

本日の犠牲者はアレフ大佐。 ルークと同じく、無惨な姿で発見された。 第一発見者は通りすがりのエルだったらしい。

「な、んだって?リーアが霊能者?」 「他に誰か居ないのか?自称霊能者は」

顔を見合わせるが、誰も返事をしない。 当たり前でしょ、とリーアがふんぞり返るがリンはそれを許さない。

「ニッツさん、ルカさん、サンジさんやアレフさんに可能性がある以上、確定事項ではありません。 皆様ゆめゆめお忘れなきよう」

確かにリンにとってはリーアは人狼確定なのだ。となれば他に霊能者がいたと考えるのがスジだろう。

「…それは違うよ」

比較的無口寄りなエルが、声を上げた。 皆の注目を浴びると、恥ずかしそうにポリポリと頬を掻いた。

「…や、リンさんの言い分が違うって言いたいんじゃない。 アレフ――大佐が、霊能者の可能性はあり得ないんだ」 「どういうことだ?」

ダリオに聞かれると、エルは1通の手紙を出した。

「…これ。 大佐の遺言状。彼と、そして僕の役職について書いてある」 「エルの…?」

『皆へ。 この手紙を読んでいるということは、どうやら人狼の牙に掛かってしまったのだろう。無念だが、致し方ない。

実は、皆に隠していたことがひとつある。 それは、我が役職が"共有者"なる者であるということだ。 詳しくはカエデに訊くか、図書館の文献を参考にしてほしい。』

「カエデさん、共有者って?」 「はい、ええと… 互いに互いが村人だと知っている、そんな絆で結ばれた方たちのことです。 文献には載っているのですが、誰も名乗りを挙げられないのでこの村にはいらっしゃらないと思ってました。 まさか大佐が…」

そこまで言うと、カエデは声を震わせ俯いた。 ダリオが手紙を読み進める。

『そして我が相方の名は、ならず者のエル。 我々は、どちらかが先に倒れたときのために合言葉を決め、相方へ遺言状を手渡しておいた。 その合言葉は――』

「…エル、合言葉は?」 「僕のコードネームはムタ。 大佐のコードネームは、リュウ。ドラゴンのように強くありたい、彼はそう言ってたよ」

こうして、気弱で優しい、大佐の"遺志を次ぐ者"は誕生した。

*・*・*

「リンさん、本日の占い結果を聞いても?」 「はい、司書のカエデ様は人間でした」 「はいはーい、詩人のダリオさんも人間でしたっ!疑ってごめんなさい!」 「…リーアは人間だった。解りきってたことだけどね」

占い結果が出揃うと、当然のように話題は霊能者結果へ。

「…で、リーア。 オッドさんたちは何者だったんだ?」 「うん、あのね… まず、リーア、死んでるヒトのことしか解らないからサンジさんとルカさんのことは解らない。 で、ニッツさんとルークさんとアレフさんは人間で~…」

概ね解りきっていた情報をまとめて言うと、リーアは小さく深呼吸した。

「…なんと、オッドさんは人狼だったみたい」

*・*・*

いつになく真剣な顔の告白に、皆が静まり返る。 とは言えリンだけは、苦虫を噛み潰したような表情で「嘘に決まってます…」と呟いていたが。

まさか、という驚きと やった、という喜びと それでも、という葛藤。

皆それぞれに格闘していると、メルが口を開いた。

「…おめでとうございます、リーアちゃん! 私、リンさんを疑いたいわけではないけど、でもリーアちゃんは本物の霊能者ってことで良いと思います。 リーアちゃんが今日まで生きてくれてなかったら、きっと私たちもっと暗くなってたと思います。 オッドさんについては勿論思うところがあります、でも―― でも、リーアちゃんのお陰で皆に光が差しました。ありがとうございます」

元々姉妹のように仲の良かったメルに頭を撫でられると、 安心したのかリーアはわんわんと泣き出した。

メルとアルトに付き添われながら自宅まで送り届けられたリーアは、投票の時間まで戻ることはなかった。

*・*・*

「…さて、随分と寂しくなったが… 今日の"処刑"は誰にする?」

元気なリーアとまとめ役のアレフが消えて空気が淀んでいる中、エルが切り出した。 緊張しているからか、声が震えている。

「…いい加減、自称占い師を処刑しても良いのではないか?」

そう言おうかと思ったクラフトだが、占い師の反感を買って占われては身も蓋もないと留まる。 前日と似たような話し合いの末、昨夜と同じく無記名による投票で"処刑先"を決めることになった。

結果は、 リンが3票 マリが4票 アルトが1票 リーアが2票 クラフトが2票。 最多票を獲得していたのは、自称占い師であるマリだった。

「えっ…わ、私!?」

ごめん、とは誰も言わない。 言ったところで何かが変わるわけでもなく、気休めにすらならないからだ。

「…マリ。 処刑の方法に希望はあるか?」

「…………。 せめて、あと1日だけでも呪殺のチャンスが欲しかった。 でも、仕方ないね。みんなで決めたことだもの」

静まり返る中、マリは続ける。

「ちょっと早いけど、今日の占いを終わらせてから処刑してもらえるかな。 占い先は…クラフトさん、貴方だよ」

そうか、と小さく呟くが、内心は心臓が早鐘のように鳴っていた。 遅かれ早かれ占われるとは思っていたが、まさか今日、しかもこれから自分が首をはねる者に占われるとは。 動揺を表に出さないよう努力しながら、処刑は行われた。

*・*・*・*・*

「…はっ、はっ、はぁっ…」

何度思い出しても、死の恐怖は拭えない。 自宅に帰ってからも、クラフトは寝付くことが出来ずにいた。 今まで自分が殺めてきた者たちの顔が、亡霊のように浮かんでは消えていく。 今夜は寝ても悪夢に魘されそうだ。そう考えて身を起こすと、違和感に気付く。

「なんだ…?」

上手くは言えないが、ムズムズする。 まさか、今本物の占い師に占われているのか――

「嫌だ、死にたくない…!」

殺られる前に殺れ。 そんな言葉が頭を過る。 いや待て、ここまで姑息にも隠れていたオレにそんな権利があるのだろうか。

「…クソッ」

物に八つ当たりするわけにもいかず、つい何時も腰に差している長剣に手を伸ばす。

そうだ、素振りをしよう。

明らかに現実逃避だが、何もせず耐えるよりはマシだった。 1000までキッチリ数え終わる頃、外はもう明るくなっていた。

「…死ななかった、のか…」

結局何故身体に異常が表れたのかは解らないが、 もしかすると狐に変化していただけだったのかもしれない。 安心と安堵に包まれて浴びるシャワーは、冷たかった。

*・*・*・*・*

少しだけ仮眠を取ったクラフトは、宿屋に向かう途中で花屋のメルに会った。

「…あ、クラフトさん。 おはようございます」 「お早う。 メルの家は確か村の反対側では?」

少し窶れたその顔は、儚げに微笑んだ。

「ええ、 皆さんのお宅に花をお供えしていたんです。 私にはそれくらいしか出来ませんから」

驚いた。 ただでさえ狂いそうなこの状況で、死者を忍ぶ心がある者がいるとこに。

「…皆も少しは浮かばれるだろう」

儚くも強いその女性に対して、そう励ますのがクラフトにとっての精一杯だった。

*・*・*

いつもより少し遅めに宿屋に着くと、会合は既に始まっていた。 隣に座った男爵リヒターに聞いた話によると、詩人のダリオが無惨な姿で発見されたらしい。

「…お主も今日は遅かったでござるな。 皆心配していたぞ」

すまない、と小声で答えると、気にするなと菓子を渡された。 男爵という地位にありながら、不思議な魅力を持つ男だ。口の中で菓子を転がしながら、クラフトは思った。 全員が揃うと、エルが話し合いの話題を振る。

「えっと、今日の占い・霊能の結果を聞いてもいいかな?」 「うん、あのね… マリさんは人間…っていうか、狂人?狐?だったみたい。少なくとも人狼ではなかったよ。…本物の占い師、かもしれないけど」 「心配しなくていい、リーア。僕が本物の占い師だから。 占い結果ね。学者のクラフトさんは人間…だったよ」

え? リンが何か言っているが、頭に入ってこない。 アルトに占われていた?それでも生きていると言うことは、本物の占い師は―――

「…クラフトさん、聞いてます?」

あまりに呆然としていたオレを見かねて、メルが話しかけてきた。 ああ、すまない…と場を濁し、カエデに声を掛けて議事録を渡してもらう。

リンが"真占い師"であると言うことは、 司書のカエデと今日占われていた詩人のダリオは村人だということ。 そして少年アルト、雑貨屋のマリの正体は不明なままだが―― リーアが、人狼…?

リーアに目線をやると、此方に気付いて首を傾げた。 まさかオレが狐だとは思ってもないのだろう。不思議そうな顔だ。

生き残りさえすればいいオレの選択肢は、2つ。 まず、村人に協力して人狼を全て退治すること。 そして、人狼側に協力して、村を滅ぼすこと。 どちらにせよ、オレの存在は知られてはならないし、真占い師――リンに占われてもいけない。

一気に視界が開けてきたが、だからと言って何かが変わるわけでもない。 急に態度が変わるのもおかしいだろうと、後は流れに身を任せることにした。

*・*・*

「じゃあ、今日の処刑の投票をお願いします」

エルの号令で我に返ると、時刻は既に夕方だった。 正直なところ、今日は処刑される心配もないから誰に投票しても変わりはない。

いや、待て。 リンを処刑することが出来れば――? 悪魔の囁きに、思考も身体もフリーズする。 確かに、リンさえ居なくなれば生存出来る可能性はグッと上がる。だが――

それは果たして"正しい"ことなのだろうか。 長年探している双子の弟『クラウディ』に胸を張れることなのか? 彼と再会したときに、本当に心から笑うことが出来るのだろうか? クラウディだけじゃない、オレの帰りを待っているであろうヘルや"なずな"にも、胸を張れないようなことは―――

悩みに悩んで、投票用紙に名前を書く。 エルに紙を渡すと、オレが最後のようだった。

「…よし、投票の結果を言うよ。今日の処刑先は――」

リーア。 奇しくも、クラフトが投票用紙に名前を書いた少女の名前だった。

「えっ… な、なんで!? リーアなにも悪いことしてないのに!」 「…そうだよ。 いくらリンさんに黒判定を貰ったからって、リーアは僕の白判定先、ましてや霊能者だよ? それを処刑するなんて、皆どれだけ大変なことを言ってるか解ってるの?」

リーアとアルトの反論に、誰も何も答えない。 否、答えられないと言う方が正しい。

日が進むにつれ、人狼という存在への恐怖感は増してゆく。 いくら"自称"霊能者とはいえ、縄からは逃れられなかった。

「…ねえ、考え直してよ。 もう一回投票のし直しをすれば、考え直すヒトも出てくる筈だよ」 「アルトくん」

説得しにかかったアルトを、メルが呼び止める。

「駄目です。…それは、駄目。 私だってリーアちゃんの処刑には反対ですが、村として決を取った以上、従わねばなりません。 そうでないと、今まで処刑された方々が浮かばれません」

そうハッキリと告げたメルは涙声だったが、泣いてはいなかった。 それを聞いて、リーアの腹も決まったようだ。

「…うん、あのね。 リーア、なるべく苦しくない死に方がいい。 それと、この髪、お気に入りだから絶対に汚さないでね。 約束だよ、クラフトさん」

皆それぞれに、強くなっていく。 人狼リーアの"最期"は、とても子供とは思えない言葉で締め括られた。


to be continued...

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