夜空を見上げる子狐の話
- crimson1117 & chome_17
- 2019年1月23日
- 読了時間: 3分
朱は、生まれた時から妖だった。
『妖狐』。 人々にはそう呼ばれ、恐れ崇められた。
朱は、家族以外の妖を知らない。 朱にとって妖と言うのは、幻獣であり、妖怪であり、憧れの存在であった。
そんな朱の元に、あるニンゲンが現れた。
*・*・*
「こんにちは。ジャックさんだよ」
そう言うと、うどんを啜り始める。
「ジャックさんはね、うどんしか食べられないんだ。キミと一緒だね」
食べられないのではなく供えられるだけだ、と言うと彼は笑った。 変な男だ。
「本を読むのは好きかな?」
頷くと、懐から一冊の本を取り出して言った。
「この本を、貸してあげよう。読み終わる頃にまた来るよ」
*・*・*
龍が登場するその本を読み終えると、ジャックは後ろに立っていた。
「どうだった? ジャックさんのお気に入りの物語なんだ」
驚いて固まっていると、彼は続けた。
「ごめんね、驚かせたかな? ジャックさんは占師なんだ。だからキミのこともお見通しだよ」
こうして、自称占師の胡散臭い男と幼い妖狐の縁は結ばれた。
*・*・*
その後もジャックは、続きを読み終えると現れては書物を貸してくれた。
口下手で引っ込み思案だった朱は、彼を通じて社交的になっていった。
物語を全て読み終える頃、2人は確かに『友達』になっていた。
「なぁ、ジャック」 「何かな」 「うち、この本好きや。もっかい最初から読みたい」
そう言うと、暫く思案した後こう言った。
「なら、あげるよ」 「え?」 「朱は大切な『友達』だ。だから、この本はプレゼントする」 「ええの?」 「ええよ」
嬉しそうに跳ね回る朱を見るジャックの視線は、何処か悲しそうだった。 しかし、朱がそれに気付くことはなかった。
*・*・*・*・*
ジャックが死んだ。 そう聞いたときの朱は、酷く落ち込んだ。 鬱いで物も喉を通らず、明るい性格は影を潜めた。
「うち、どないしたらいい?」
答えのない問を繰り返しては、独り泣いていた。 伝え聞いた話によると、彼は信用できると話し掛けた村人の手によって殺されたらしい。
「そんな話ってあるかいな…」
朱は、泣いた。 朱は、悩んだ。 何をすればいいか。何を信じればいいか。ひたすら考えた。 そして涙の後が乾いた頃、朱は大きな決心をしていた。
「うち、占師になる。星詠みになって、ジャックの跡を継ぐわ」
*・*・*
"星詠み"を名乗るようになってから、苦労もあった。 しかし、持ち前の根性と明るさで全て跳ね退けていった。
そんな冬のある日、ある村の村長から手紙が届く。
「妖集会を開くので、いらっしゃいませんか。炬燵を用意してお待ちしてます」
二つ返事でOKを出すと、急ぎ足で村へ向かった。
*・*・*・*・*
村に着くと、本で夢見た妖たちが待っていた。 憧れの龍もいた。 無口な者もいたが皆あたたかく、幸せだった。
村の長――キクヒメが無惨な姿で発見されるまでは。
妖には死後の世界と通じる者も多いからか、動揺は少なかった。 しかし1人、また1人と村人が減るほどに、空気は重く張り詰めていく。
そんな中、会合が始まってから3日目――その事件は起きた。
*・*・*
テマリ。村で最も仲良くなった雨童女の名だ。 彼女が無惨な姿で発見されたのだ。
しかし、朱は泣かなかった。 それまでの絆が、朱を成長させたからだ。
その後も様々な困難が村を襲ったが、朱は弱音を吐かなかった。
しかし、更なる悲劇が朱を襲う。モクレン――相方の泉水と共に旅をする妖が2度死んだのだ。
朱の涙腺は限界を迎え、泣き叫ぶ。
「絶対にうちが助けたる…!」
*・*・*
それからの朱は、駆け回った。 野を駆け山を駆け、走り回った。
そして夜顔が蕾を開く頃――モクレンが目を開いた。
それからは皆、笑顔だった。 旅人も皆で、笑い合った。
幸せに包まれながら、朱の村での生活は終わりを迎えた。
.fin.
この話を描くにあたってこの村の皆様のお世話になりました。
ありがとうございました。
オマケ 朱とテマリ
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