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占師ジャックの物語

ジャックは考えていた。 今の世は腐敗してる。 水晶玉で全てを視る彼は、うんざりしていた。

他人から奪う者 奪われたからと奪い返す者 他者の遣り取りに気付きながら、手を差し伸べない者 無関心を装って楽しむ者 見棄てられた者

如何なる善人でも、奪わずして生きることは出来ない。 汚れを押し付け合う他者と、ただ傍観する自分。 彼には、全てがクロく視得ていた。

この能力を使って、世直しが出来ないものか。 彼は考えた。その日の食い扶持を稼ぎながら。 彼は努力した。正規ではないが"医者"を名乗れるだけの知識を得る程に。

そして、ある実験を思い付く。 彼の純白すぎる魂が、黒転した瞬間だった―――。

*・*・*

彼は狐になった。 誰よりも姑息に、誰よりも残酷に、誰よりも狡猾に。 占われると生命を奪われる儚さと引き換えに、狼に襲われても死なない強さを手にした。 それは、悪魔の契約だった。

何時からか、彼は生存よりも勝利を目指すようになっていった。 否、そうならざるを得なかった。 彼にとって、生死ほどどうでもいいモノはなかったから。 死体―――即ちモノを見通せない彼にとって、生死は然したる問題ではなかったのだ。

或る村では、村人として議論をまとめ、他者を処刑し。 或る村では、疑い疑われ、殴り合いの喧嘩をし。 或る村では、確定人外として、嬲り殺された。

実験を重ねるうち、彼は1つの事実に辿り着く。 魂がクロい者ほど、この実験を好むのだと。 占師ジャックの世界は、赤転した。

*・*・*

世界がアカくなってからは、ただひたすら数をこなしていった。 実験をしている感覚も麻痺していった。 勝利も生存も、その境目すらも溶けていった。 占われることへの抵抗も、なくなった。 否、させてもらえなくなった…と言う方が、正しいのかもしれない。

相手の素性をゲームのように当てていく。 水晶玉を視ているときのジャックは強かったが、同時に脆くもあった。 身体の調子を崩すことも、一度や二度ではなかった。

味方すら欺き、ただ貪欲に他者を殺す。 そこには如何なる快感も無ければ、如何なる慈悲も無かった。

*・*・*・*・*

ジャックは或る村へ辿り着いた。

海の近い、小さな寒村。

いや、村というよりは、『ただそこにヒトが集まっているだけ』と言う方が正しいかもしれない。

ジャックは焚き火を起こした。 イモを焼べ、鍋料理を作った。

其処に居たヒトビトと、ババ抜きを楽しんだ。

人々はあたたかかったが、どこか虚しさが漂う、そんな"最期の村"だった。

ああ、世界がもし緑色だったなら。 もし自分の世界がもっと平和な"色"だったら。

そうだったら、何かが変わったのだろうか。

何よりも緑色が好きなジャックは、そう思いながらも、最期の一瞬まで水晶玉を手放すことはなかった。


*・*・*・*・*・*・*


この小説を作成するにあたり

http://chaos-circle.jp/abyss/sow.cgi?vid=1088&cmd=vinfo&game=TABULA&trsid=all

の村を参考にしました。


同村の皆様(特にcrimson1117様)、ありがとうございました。

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