ヒカルと唯の物語
- crimson1117 & chome_17
- 2019年1月20日
- 読了時間: 4分
ぼくは一生を掛けて、キミと向かい合わなければならない。 今、隣に居ないキミに捧げる。
物心が付いたときから隣にいた。 この世界に生まれた時間に違いがあっただけのキョウダイ。
ぼくより身体が弱かったキミは、常に母の愛を受けていた。 キミより丈夫に生まれたぼくには、それが羨ましかった。
喘息のあったキミが、アトピーのあったキミが、アレルギーのあったキミが、羨ましかった。 羨んではならない事だと、理解しながら。 父の見守りを受けて育ったぼくは、寂しかったのかもしれない。
キミは、ぼくの真逆に育ったと思う。 男勝りで勝ち気なぼくと、女々しくて"女子力の高い"キミ。 それは元々の個性だったのかも知れないし、周囲の期待に応えようと各々が努力した結果かもしれない。 ただ、少なくとも幼少期は、傍目に似てるキョウダイとは見えなかっただろうと思う。
学校に通うようになると、色々な事が変化していった。 キミの方が、頭が良くて、先生にモテて、優等生だった。 ぼくの方は、運動と落書きが好きな子供だった。
それを羨むようになったのは、定期テストの順位が出るようになってから。 小さい頃は見下ろしてたぼくが、見上げるくらいにキミが大きく育ってから。 キミの結果もぼくの結果も、努力の結果なのに、その差を受け入れられなくなった。 キミが天才ではないことを良く知ってるからこそ、不安になっていった。
ぼくは、絵を描き続けた。 そう言えば思い返すと、キミと一緒の時間と空間で絵を描いたことは、なかったかもしれない。
ぼくは、キミのことを自慢した。 家のことも、包み隠さず周りに話した。 それがぼくなりのアイデンティティの保ち方だった。
キミは、ぼくと真逆だった。 そんなキミのことが、ぼくは大好きだった。 どんなに羨んでも、自慢したくて仕方のない可愛いキョウダイだった。 たった一人の、唯だった。
ぼくの方が、先に家を出た。 キミの方が、遠くに家出した。 ぼくらは共に出家した。 それだけの違い。
ぼくはキミの幻を見た。 誰も信じてくれないが、紛れもなくキミの姿をした幻だった。 昔の蒼いデミオに乗った、少しやつれて髪の長いキミは、我が家の車庫から、運転に慣れた様子で、出ていった。 誰も信じてくれないが。"彼"は、"ぼく"にとっての"キミ"だった。 唯一、視覚情報と外的情報が一致してないのがこの件だ。 キミは家に居ないのだと、ぼくに隠れて帰ってきてなど居ないのだと、ぼくを驚かせようと、サプライズプレゼントしてくれるヒトなど居ないのだと、何度父母に訪ねても、どんなに可愛い子供を演じても、納得できなかった。
だからきっと、唯のゲンカクなんだと、今は脳が処理している。 もしキミが帰って来てるなら、家族揃って一緒に晩御飯を食べる筈だから。 それが我が家の、絶対の掟と言える、唯の存在よりも確かなルールだから。
因みに、予知的な意味で時系列が一致してない情報も1つだけあるが、これは秘密。 今度会ったら教えてあげる。だから、忙しいだろうけど、いつか必ず帰ってきてね。
それほどまでに、キミが隣に居ない現実を受け入れられなかったことには、理由がある。 少なくとも父と母が直接の原因ではないのだが、ぼくはイキグルシカッタ。
息が苦しくて、酸素すら拒否して、音を消して物陰に隠れ、食事を丸飲みする日々。 恵まれているのは解ってる。ただ、頭で解っても、こころから安心できる居場所ではなかった。
こんな言い方をしたら、苛めや虐待を想像するかもしれないが、そんな事がアリエナイのは、キミもよく解ってると思う。
親は悪くない。 ぼくのすべてが悪いんだと。 そう決めつけて、呼吸だけしてた。
今のぼくは違うけれど。
だから、キミは安心して夢をみてて欲しい。 キミが戻る場所はあるから。 ぼくを支えてくれるヒトも居るから。
まあ、キミの事だから、言わなくても解ってるんだろうけど。
唯に送る、唯だけに送る、ヒカルの物語。
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